【近隣インタビュー】日常の景色にアートが加わる。長居公園のハナサカミューラルを見つめる二つの視点。
- 5月14日
- 読了時間: 7分
更新日:5月15日

大阪・長居公園の壁面を彩っている「HANASAKA MURAL(ハナサカミューラル)」。3ヶ月ごとに作品が描き変わるこのプロジェクトを、近くで、そして愛着を持って見つめている方々がいます。
今回は、ハナサカミューラルの壁画のお向かいさんでカフェ「Bonheur Kitchen (ボヌールキッチン)」を営むご夫婦と、アートへの造詣が深く、自宅の窓から制作の一部始終を見守るおばあちゃんの2組にお話を伺いました。
「変わっていくこと」が、日常のスパイスになる。interview by Bonheur Kitchenオーナー夫妻
長居公園のほとりで10年。添加物の少ない体に優しい食事を提供する「Bonheur Kitchen(ボヌールキッチン)」。店主夫妻にとって、窓の外の壁画は「日常の風景」であり「変化を楽しむスパイス」になっているそうです。

——まず、この場所にカフェを開いたきっかけを教えてください。
刑部 洋子さん(以下、洋子さん): もともと海外の大きな公園、例えばニューヨークのセントラルパークやヨーロッパの公園にあるような、緑を眺めながらゆったり過ごせるカフェが大好きだったんです。「日本にもそんな場所があったらいいな」という憧れが始まりでした。
刑部 隆太郎さん(以下、隆太郎さん): それと、当時は子供が安心して食べられる、添加物の少ない食事を提供しているお店がまだ少なくて。「それなら自分たちで作ろう」と。2010年にこの近くへ移住し、子育てをしながら10年前にこの店をオープンしました。
——オープン当時と今では、窓からの景色も随分変わったのでは?
洋子さん: 全然違いますね。以前は今のスタジアムも改修前で、もっと緑が生い茂っていました。窓いっぱいに緑が見えて、それはそれで素敵だったんです。その後、スタジアムが新しくなり、目の前にブロック塀が立って少し殺風景になったな……と感じていた頃に始まったのが、YANMARさんとWALL SHAREさんで行う「ハナサカミューラル」プロジェクトでした。


——「ハナサカミューラル」は、3ヶ月ごとに作品が描き変わるスタイルですが、これについて、どう感じていますか?
隆太郎さん: 面白いですよ。カウンターの中から描いている様子がよく見えるんですが、仕事をしつつ、そのプロセスを特等席で見守れるのは貴重な体験だと思っています。
洋子さん: 制作中は「次は何ができるんだろう?」って楽しみにしています。でも、ずっと見ているはずなのに、ちょっと目を離した隙に「えっ、いつの間に!」というスピードで描き上がっている時もあって。3ヶ月というスパンも、短く感じる時もあれば長く感じる時もありますね。季節によるのかな?その時の自分たちの感覚とリンクしている気がします。
——アーティストの方との交流も生まれるのでしょうか。
隆太郎さん: ええ。特に夏場などは、炎天下で描いている姿を見ると「うわあ、今日は本当に暑そうだな……」とこちらまで感じます。そんな時に、アイスコーヒーを届けることもありますよ(笑)。


——「好みじゃない作品」が描かれる不安はありませんでしたか?
隆太郎さん: それがあんまりないんです。「もし今回のが自分たちの好みと少し違ったとしても、また3ヶ月後には次があるしね」って思える。固定されない、変わり続けるアートだからこそ、構えずに楽しめるのかもしれません。
洋子さん: 私は暴力的な表現は苦手ですが、これまでの作品はどれもまちに馴染むものが多い気がしています。最近だと「あ、今回はピンクが入ってないね」「日本語が書いてある!」なんて、楽しい気づきもあったりして、お客さんと会話のきっかけになることもあります。
―普段にはない会話が生まれているのは嬉しいです。特に印象に残っている作品はありますか?
洋子さん: やっぱり、アーティストのsimoちゃんの作品ですね。実は彼とは共通の友人がいて、家族ぐるみの付き合いもあります。最近会えてないけれど元気かなあ。


隆太郎さん: あの時の企画は印象に残っていますね。近所の子どもたちが拾ってきた石を、作品の一部として描き込んでくれたんです。僕たちの子どもにも「ほら、あそこに私が拾った石があるよ」って教えられて。
洋子さん: 近所の子どもたちもみんなで参加して、「自分たちが関わった絵」という一体感がありましたね。以前にも、子どもたちが下描きした上にプロが描く企画がありましたが、そうやって地域の人たちが作品に関われるのは、アーティストが一人で描き上げる「壁画」以上の価値があるんじゃないかなと思います。

「次は何かな?」と、散歩の足が少し軽くなる。interview by 西井さん(近隣住民・元美術館勤務)
続いてお話を伺ったのは、長居公園の近所でハナサカミューラルで描かれる壁のお近くのマンションにお住まいの西井さん。かつて美術館で働いていた経験を持つ彼女にとって、3ヶ月ごとに塗り替えられるこの壁画は、今では「近所の楽しみな変化」の一つになっているそうです。

——このプロジェクトを知られたきっかけは、何だったのでしょうか?
西井さん: 私は近所のマンションに住んでいるのですが、毎日窓を開けるたびに、どうしても目に入るんですよね。最初は「何が始まるのかしら?」と不思議に思っていました。
あまりに気になって、実はヤンマーさんの広報さんに直接問い合わせてみたこともあるんです。そうしたら、「スポーツ選手を応援するのと同じように、アートも人の心を動かして感動させるものとして、アーティストを応援する趣旨のプロジェクトを始めたんです」と丁寧に教えてくださって。その理念を聞いてから、より一層親しみを持って見守るようになりました。
——これまで多くの作品が描かれてきましたが、特にお気に入りはありますか?
西井さん: 今描かれている「オリーブの枝を咥えた鳩」の作品(アーティスト:usugrow)が、これまでで一番好きですね。基本的に、抽象的なものの方が好きですね。
最初は抽象的な模様だと思っていたのですが、お友達から「あれは鳩よ」と教えてもらってハッとしました。今の世界情勢や、終わらない戦争のニュースを見ていると、この平和の象徴がすごく心に響くんです。これまでの作品の中でも、初めて深く「届いた」という感覚がありました。


——「描き変わっていく」というプロセス自体はどうご覧になっていますか?
西井さん: 3階の窓からだと、制作の裏側がよく見えるんですよ。最近は夜に映像を壁に投影して下描きをされていたりして、その技術にも驚きます。真夏の暑い時期に、夜通し作業されている姿を見たときは「本当に大変な仕事だわ」と頭が下がる思いでした。
私は草間彌生さんのような、色彩豊かでエネルギーのある抽象画が好きなんです。だから3ヶ月ごとに全く違う感性がやってくるこの環境は、とても刺激的。今通っているアートシニアカルチャースクールの講師の方も「ミューラル」の話をしても知らなかったんです。だから、「ミューラルっていうのよ」と教えたりして、私なりにこの文化を広めているつもりです(笑)。

——西井さんにとって、この壁画はどんな存在ですか?
西井さん: 体が元気な頃は、よく海外旅行にも行っていたんです。以前、ニューヨークのブルックリンへ行った際、壁画が観光資源になっているのを見たことがありますが、日本はまだこれからね。でも、こうして建物に直接描き、まちの風景そのものをアートにしていく試みは素晴らしいと思います。
次は7月頃に描き変わるのかしら。暑い中での制作は大変でしょうけれど、また新しい驚きに出会えるのを楽しみに、窓を開けたいと思います。
アートが共生する日常の風景がある
カフェの窓から、そして自宅の窓から。異なる場所から同じ壁を見つめる方々に共通していたのは、アートを「完成品」としてだけでなく、「描く人の熱量」や「変化する時間」ごと楽しんでいるという視点でした。
「ハナサカミューラル」はそこに住む人、働く人の日常に溶け込んで、時に会話のきっかけとなり、時に平和への祈りとなる。一つの壁から生まれる景色は、今日もご近所さんの温かい眼差しに支えられて、新しく塗り替えられていきます。

取材・執筆:MURALITHM編集部(小倉ちあき)
今回お話を伺った方々
Bonheur Kitchen(ボヌールキッチン):長居公園隣接のカフェ。無添加・手作りの食事を提供して10年。
西井さん:近隣在住。元国立国際美術館勤務。夫は住吉区役所に大作が設置されている画家の故・西井義晃氏。
「HANASAKA MURAL(ハナサカミューラル)」プロジェクト 「HANASAKA MURAL(ハナサカミューラル)」は、ヤンマーの「HANASAKA」の精神を体現する、ヤンマーホールディングスとWALL SHARE株式会社の共同プロジェクトです。大阪・長居公園の壁面を舞台に、約3ヶ月周期で作品が塗り替えられる「循環型」の仕組みが特徴。完成された作品を飾るだけでなく、アーティストが挑戦し、描き変わるプロセスそのものを地域に開放しています。アートを通じて日常に変化と彩りを与え、人々の対話や豊かな感性を育むことを目指しています。 https://www.yanmar.com/jp/about/hanasaka/hanasakamural/
MURALITHM編集部
オウンドメディア「MURALITHM(ミューラリズム)」は、WALL SHARE株式会社のメンバーが自ら取材・制作を行う公式メディアです。ミューラルにまつわるプロジェクトの舞台裏を、現場の熱量そのままに言語化。完成したミューラルの美しさだけでなく、アーティストの思考プロセスや社会とアートが交差する瞬間の記録をお届けしています。






