【メンバーインタビュー #05】「美術館を飛び出し、現場の熱量を届けたい」。地球の裏側から日本の「壁」へ
- 2月10日
- 読了時間: 6分

ミューラルプロデューサー:マリオン・ネスター インタビュー
ミューラル(壁画)がまちにもたらすものは、単なる「飾り」ではありません。殺風景だった壁に、ふっと「人間味」という温かな体温を吹き込む。そんな不思議な力があります。 今回は、フランス、チリ、カナダと世界のアートシーンを歩み、現在はWALL SHAREのプロデューサーとして活躍するマリオン・ネスターさんに話を聞きました。彼女がなぜ日本を選び、壁の向こうにどんな未来を見ているのか。その等身大の想いをお届けします。
チリのギャラリーから始まった、アート界での360度
―― まずはマリオンさんのこれまでのキャリアを教えてください。アートの世界に足を踏み入れたきっかけは何だったのでしょうか?
マリオン: 始まりは10年前、チリのサンティアゴにあるギャラリーで働き始めたことでした。そこで出会った編集者の存在が大きかったですね。彼はアーティストのことだけでなく、地域コミュニティのことまで、アートがどう社会と関わっているかをたくさん教えてくれました。それが私の原点です。
その後、パリでアートマーケットの勉強をしてMBAを取得し、美術館やギャラリーで現代美術のプロとして、アーティストやコレクターの方々と向き合う日々を送ってきました。





―― 現代美術からストリートアート、そして「版画(プリント)」にも深く関わっていらっしゃいますよね。
マリオン: そうなんです。フランスやカナダで版画を学び、自分のスタジオ「Collectible-Prints(現在のHEKIGA)」も設立しました。一見、伝統的な「版画」と自由な「ストリートアート」は遠い存在に見えるかもしれません。でも、私の中では「アクセシビリティ(誰もがアートに触れられること)」という大事なキーワードで繋がっているんです。
版画は、高価な一点モノのアートとは違って、たくさん作るからこそ多くの人が手に取りやすい。そんな「みんなに開かれた精神」って、まちなかにあるストリートアートと全く同じだなって気づいたんです。
夢が大阪で現実になった。 WALL SHAREとの出会い
―― マリオンさんは2025年3月に入社されましたが、なぜ日本、そしてWALL SHAREだったのですか?
マリオン: ずっとストリートアートに関わりたいと思っていたんですが、以前の美術館やギャラリーの仕事では、その想いを100%形にするのが難しかったんです。 そんな時、フランスのメディア『Courrier International』で偶然WALL SHAREの記事を見つけました。「日本にこんな活動をしているチームがあるんだ!」って、すごくワクワクして。「ここなら自分の経験を活かせるかも」と直感したんです。
―― 海外メディアの記事がきっかけだったんですね!迷いはありませんでしたか?
マリオン: もちろん不安でしたよ(笑)。自分の居場所があるかどうかも分からないまま、日本の文化を探求したくて移住を決めたので。でも、自分がずっとインスピレーションを受けてきた「ストリートアート」と、これまでのキャリアを繋げてくれたのがWALL SHAREでした。地球の裏側からやってきて、大阪でその夢が現実になったことには、今も本当に感謝しています。

日本のミューラルシーンに見る「伝統と革新の融合」
―― 入社してから、特に印象に残っていることはありますか?
マリオン: 2つあります。1つは、大阪・此花区のオフィスでチームが私を温かく迎えてくれたこと。唯一の外国人メンバーである私にとって、あの時の安心感は今でも活動の支えになっています。 もう1つは、入社してすぐに参加した沖縄のプロジェクト「WRAP UP OKINAWA 2025」です。





―― 海外でも多くのフェスを見てきたマリオンさんの目に、沖縄のプロジェクトはどう映りましたか?
マリオン: 本当にユニークでした!私はこれまでカナダ・モントリオールの『MURAL Festival』やアメリカ・マイアミの『Art Basel』など、世界中の巨大なフェスを見てきました。それらは非常に洗練されていますが、どこか決まった形(形式的)になりつつあるな、と感じることもありました。
しかし、沖縄は全く違いました。琉球古典音楽の調べの中で若いダンサーがブレイクダンスを踊り、その横でアーティストがミューラルを描く。何より地域の方々が深く関わっていて、ストリートアートがあたたかく受け入れられていたんです。
―― それがマリオンさんの考える「日本の強み」にも繋がりますか?
マリオン: はい。欧米では「アート」と「伝統」を分けて考えがちですが、日本にはそれらを一つの流れとして受け入れる土壌がある。この「まぜこぜ(融合)」な感じこそが、日本ならではのカッコいいミューラル文化になるんだと感じました。
ミューラルがもたらす「人間味と温かさ」のある未来
―― マリオンさんが描く、これからのアートの未来について教えてください。
マリオン: ミューラルは、会話を生み出したり、誰かの心を癒やしたりする力があると思っています。 私の地元のフランスの田舎町は、アートに触れる機会がほとんどない場所でした。でも数年前、入院中の祖父を見舞いに行ったとき、殺風景な病院の壁に巨大なミューラルが現れたんです。病室の窓から見える無機質な壁に「人間味」が宿ったのを見て、患者さんも家族も、ふっと心が安らぐのを感じました。


―― その光景を見て、どう感じられたのですか?
マリオン: 「もしおじいちゃんと一緒に外を歩けたら、あの絵を見ながらおしゃべりできたのにな」って。ミューラルは患者さんだけでなく、そこで働くスタッフや、お見舞いに来る家族みんなに「安らぎ」をプレゼントできる。そんな役割もあるんだなって。
こういうポジティブな変化を、病院や学校、オフィス、そして何気ない路地裏にも広げていきたい。それが私の描く、アートと社会が一緒に生きていく未来です。
―― 最後に、WALL SHAREで達成したい目標を教えてください。
マリオン: 「日本にもっとミューラルを!」、シンプルですがこれに尽きます。ミューラルは、どんなに小さなまちでも地域の文化を元気にして、誰もが気軽にアートを楽しめる環境を作ってくれます。 「見るだけ」じゃなく、みんなで参加して、みんなで作っていく。WALL SHAREのチームと一緒に、皆さんの心に深く残るようなアート体験を届けていきたいです。

【編集後記】 ギャラリーや美術館という「静」のアートシーンから、街角という「動」の現場へ。マリオンの情熱は、日本のミューラル文化に新しい風を吹き込んでいます。彼女が語る「伝統とストリートの融合」や「人間味」は、私たちがこれから目指す大きな指針になるはずです。






