【クライアントさんに聞いてみた #06】“仮囲い”からまちをひらく。大阪・南茨木で生まれた共創ミューラルの記録
- WALLSHARE株式会社
- 7月11日
- 読了時間: 7分
更新日:7月21日

建設現場の仮囲い。その一面に、鮮やかなアートが描かれているのをご存知でしょうか? 大阪・南茨木の新築分譲マンション「イニシア南茨木」の建設地で、大和ハウスグループの株式会社コスモスイニシア(以下、コスモスイニシア)と立命館大学、そしてWALL SHAREが手がけた仮囲いアートプロジェクトが2025年4月に完成しました。
立命館大学の学生と共に作り上げた本企画では、まちの風景や温かさをテーマに、多様な視点を取り込みながら一つの作品を完成させました。 今回はプロジェクトをリードした、コスモスイニシア 西日本支社 分譲部の早川綺音さんに、立ち上げの背景から完成に至るまでの舞台裏を伺いました。
仮囲いにアートを描く。“まちに開く”という想いから。
ー今回のプロジェクトが生まれた背景について、まずは教えていただけますか?
早川綺音さん(以下、早川さん): 現場は高速道路沿いで、駅からの帰り道が少し暗い印象のあるエリアでした。ただ、南茨木は温かさにあふれ、かつ住む街として非常に利便性にも優れた素敵なまちだということを知っていたので、建物ができる前からポジティブな空気を届けたい、南茨木の良さをもっと知っていただきたい!と思ったのが始まりです。私たちコスモスイニシアは、物件を購入されるお客様だけでなく、地域全体にとって価値ある開発でありたいという想いを常に持っていて、その延長で「仮囲いを使って何かできないか」と考えたのが出発点でした。

ーWALL SHAREとのつながりは、どんなきっかけだったのでしょう?
早川さん: もともと弊社のOBがWALL SHAREさんを紹介してくださり、「こんな面白い会社があるんだ」と知ってから、いつかご一緒してみたいと思っていました。
ー仮囲いにアートを描くというのは、御社にとっても初のチャレンジですよね。
早川さん: そうなんです。通常、仮囲いといえば販売広告を貼るくらいですが、「それだけではもったいないな」とずっと思っていて。南茨木というまちの良さをもっと伝えたいという気持ちが強くあり、「だったらアートで伝えてみよう」と社内に提案しました。ありがたいことに上司も前向きで、「面白そうだからやってみよう。早川がそこまでやりたいと思ってるんだったらやろう」と背中を押してくれたんです。
ー熱意が伝わったんですね!
早川さん: 私としても、初めてマンションのプロモーション活動の担当になって、ぜひやってみたいと申し出たんです。伝えたいことを伝える広告ではなくて、お客さんの方から自然と足を運んでいただけるような見せ方もできたらいいんじゃないかなと。

学生の視点が加わったことで、“まちの魅力”が多角的に浮かび上がった。
ー立命館大学との連携はどのように始まったんですか?
早川さん: 今回の建物は、分譲マンションと学生マンションが隣り合った敷地という特徴があるんです。仮囲いのミューラルがあるだけでも、もちろんインパクトはあるんですけど、そこに地域の人との取り組みが掛け合わさったらいいなと。インパクトのあるミューラルを描いていく以上に意味のあるプロジェクトになるんじゃないかなと思ったので、学生さんとの共創にしてみてみたらどうだろうと考え、近隣の立命館大学さんへご相談したという流れです。
ー学生さんとの連携はどのように進めていったのでしょうか?
早川さん: 立命館大学の「社会共創プロジェクト」に参加する学生たちに声をかけ、アイデアを募集しました。学部も多岐にわたり、十数名が参加してくれましたね。なるべく一方的な指示にならないように、ガイダンスやフィードバック会を重ねて、「まちの魅力をどう表現するか」を一緒に考えていきました。


ー学生さんからは、どんな提案があったんでしょう?
早川さん: 審査会には、最終的に6組の提案がありました。それぞれ、南茨木の魅力を調べたうえで「何を」「誰に」「どう伝えるか」を軸に考えてくれました。図書館での資料調査や、まち歩き、地域の方へのインタビューまでしてくれて。中には、「まちの理想と現実のギャップ」を埋めるために、こんな表現がいいんじゃないかと提案してくれた学生さんもいました。そうしたひとつひとつの提案が本当に真剣で、私たちだけでは見つけられなかった、まちへの新しい目線を与えてくれましたね。




ー最優秀賞に選ばれたのは?
早川さん: 映像学部1年生の石橋さんのご提案です。元茨木緑地の四季の移ろいや、地域の方々が開催するイベント、教育への関心など、まちの魅力を「パズルのピースのようにそれぞれの魅力が絶妙なバランスで組み合わさっている」と表現してくれたのが印象的でした。
ーそのプロセスを通して、早川さんの中でまちへの見え方が変わった部分もありますか?
早川さん: かなりありますね。どれもユニークで、学生さんたちの目線がよく表れていました。すごく空が広く感じられるとか、学校から家までの帰り道で見える夕日が綺麗など、毎日茨木に通っている学生さんだからこそ見つけられる視点が多くて。私たちではなかなか出てこない切り口ばかりでした。彼ら彼女らのおかげで、私自身もこのまちの解像度がぐっと上がったと思います。

まちの空気をなぞるように描かれた、スプレーの軌跡
ーアーティストとのやりとりは、どのように進んでいきましたか?
早川さん: 石橋さんの提案をもとに、WALL SHAREの川添さん、そしてアーティストのジャック・ラックさんと意見を重ねながら表現を決めていきました。キーワードになったのは、「四季」「パズルのようにつながるまちの風景」「人の温かさ」。ジャックさんのタッチを活かしながら、それらの要素を一つひとつ丁寧に落とし込んでもらいました。

ー実際に完成した仮囲いをご覧になって、いかがでしたか?
早川さん: 「めちゃくちゃかっこいい!」と素直に思いました(笑)。抽象的だけど惹かれるアートで、つい足を止めたくなるような魅力があります。学生さんのアイデアをアーティストさんが丁寧に昇華してくれていて、作品の中には人や要素が重なり合うような表現があり、まちの特性をしっかり受け取ってもらえたのだと感じました。まちの暮らしを象徴するような、穏やかであたたかい作品になったと思います。

ー今回の取り組みを通して、あらためて感じたことはありますか?
早川さん: 仮囲いって一時的なものですが、そこに関わることで、私たちがお邪魔する地域の方との新しい関係が生まれるのだと実感しました。ミューラルを楽しんでもらえるだけでもうれしいし、施工中も現場に声をかけてくださった方が多くて。そういうやりとりが地域と建設のあいだにやわらかなつながりを生んだと思います。高速道路からも見えるので、かなりインパクトのあるアートに仕上げていただいたと思います。


ーたしかに、建物ができる前からその場所と関係を築けるって、すごく素敵です。
早川さん: 現在すでに周辺に住まれている方は、このマンションに住むわけではなくとも、アートがあることで、何かしらプラスの感情にも繋げていただけてるんじゃないかなと感じています。アートを楽しそうに見てくださったりするだけでも、マンションにお住まいいただく方以外にもいい影響を与えられていることにはなるのかなと。
ー最後に、今後への意欲のようなものをお聞かせいただけたら嬉しいです!
早川さん: そうですね。「まちの魅力を伝える」って、地名や施設を並べることじゃなくて、そこにある日々の暮らしや温度感を誰かに手渡していくことなんだなと、今回のプロジェクトを通して学びました。
学生のみなさんの熱量にも刺激を受けましたし、私自身もこのまちのことがより好きになりました。仮囲いという一時的なキャンバスが、まちにひらかれた窓のような役割を果たせたのではないかと思っています。

株式会社コスモスイニシア 新築分譲マンション『イニシア南茨木』プロジェクト https://www.cigr.co.jp/newsrelease/2025/05/minamiibaraki_art/