【クライアントさんに聞いてみた#08】アートストリートが「余白」を文化に変える。洲本市が描く観光の未来。
- 3月19日
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兵庫県・淡路島の中央部に位置する、洲本市。2026年に洲本城跡築城500周年という大きな節目を迎えたこの街で、今、都市空間を文化資源へと再編集する挑戦が続いています。
2026年1月、洲本市役所近くに出現した全長約50メートルに及ぶ巨大壁画と、街を彩る10点のアートボードが完成しました。行政が主体となり、ストリートカルチャーを地方再生の軸に据えた背景には、担当者の並々ならぬ情熱がありました。洲本市商工観光課の元木健太さん、井川拓士さんに、プロジェクトの舞台裏を伺いました。
500年の歴史がある、城下町・洲本に新たな息吹を
——今回のプロジェクトが立ち上がったきっかけを教えてください。
元木健太さん(以下、元木さん): 洲本市には江戸時代から続く素晴らしい城下町の町割りが残っており、特に夏の海水浴シーズンには大浜海水浴場を中心に多くの観光客の皆さんで賑わいますが、一方で若年層やインバウンドへの観光PRや街の魅力発信が不足しているように感じていました。従来のやり方では届かない層へ、どう魅力を伝えるか。そんな時、パリオリンピックでのブレイキン(ブレイクダンス)正式種目化のニュースを見て、「これだ!」と直感したんです。
その後、和歌山でミューラルとブレイキンを掛け合わせたイベント「JAPAN WALLS」を視察し、衝撃を受けました。ただ同時に「行政側がロジックだけで戦略的に進めるのは、独り善がりなのではないか」という不安も感じていたんです。
——どう乗り越えたのでしょうか?
元木さん: 実施した市民アンケートで、観光推進に対する市民の関心が他自治体より低いという課題が可視化されました。だからこそ、ミューラルという目に見える形を通じて住民の方々と対話し、一緒に街を作っていく「キャッチボール」が必要だ。そう考えてプロジェクトをスタートさせました。





——なるほどです。ミューラルフェスは世界的にも観光活用されているケースが多いですが、洲本市ではどのようなビジョンを描いたのでしょうか?
元木さん: 洲本市には江戸時代から変わらない「碁盤の目」の町割りが残っています。この素晴らしい路地をお客様に歩いていただきたいのですが、どう周遊してもらうかが長年の課題でした。
ミューラルなら、言葉がわからなくても直感的に楽しめます。街の中にアートを点在させることで、海外の方も、初めて訪れた方も、自然と路地裏まで足を運びたくなる。そんな「アートを道標にした街歩き」を実現したいと考えました。
——2026年1月、ついにプロジェクトが始動しましたね。
井川拓士さん(以下、井川さん): はい。2026年は洲本城跡築城500周年という記念すべき年です。この歴史的な節目に、これまでのPRとは一線を画す「ストリートカルチャー」という表現手法を取り入れ、街全体を歩いて体感できるアートフィールドへと変貌させるプロジェクトをスタートしました。
アーティストと子どもたちの「共創」
——今回の目玉は、なんといっても全長50メートルの巨大壁画ですね。
元木さん: 場所は、洲本市役所近くの壁面に、世界でも活躍するアーティスト・TITI FREAK(チチフリーク)さんを招きました。彼はディズニーやマーベルのデザインにも携わってきた巨匠ですが、単に「彼が絵を描く」だけではない、特別なプロセスを大切にしました。


——今回は制作過程に地元の小学生も関わっていますよね。
元木さん: はい。ただ壁を彩るだけでなく、子どもたちが「自分たちの街」を再発見する機会にしたかったんです。2025年12月、洲本第二小学校の5・6年生を対象にワークショップを実施し、洲本の未来や好きなところを出し合いました。
井川さん: 子どもたちが挙げたキーワードは「青(空と海)」や「人の優しさ」。大人が思う以上に子どもたちは街を深く見ていました。その瑞々しい感性をTITI FREAKさんに渡し、インスピレーションの源泉として壁画を構想してもらったんです。行政・アーティスト・市民が交差して初めて完成する。それが私たちの目指した形です。


アートをきっかけとした「対話」の継続
——実際に設置が始まり、街の反応はいかがでしたか?
元木さん: スプレーとペンキで壁が徐々に塗り替えられていく10日間でした。壁画があるのがちょうど交通量の多い交差点であり、信号待ちのドライバーが身を乗り出して見入っていたり、海外から移住された近隣に住む職人さんが、「イギリスのような日常のアートが洲本にできた」と喜んでくれたり。
2月の設置現場に立ち会いましたが、コンクリート壁が少しずつ鮮やかに…。スプレー一本でこれほど精緻な表現ができるのかという驚きもありましたが、何より空間が息を吹き返したように感じたのが印象的でしたね。

——実際に作品が完成した現場をご覧になって、いかがでしたか?
元木さん: 個人的には、制作を見守る子どもたちの目が輝いていたことが一番の成果だと思っています。自分が関わったプロジェクトが、世界に誇れるアートとして街に残る。これが地域への「愛着」や「誇り」の種になると信じています。
井川さん: 地元の方々と一緒にやる、という感覚を大切にしたかったので、小学生という将来の街を担う世代を巻き込み、一つのモデルケースを作れたことは大きな意義があったと感じています。

——また今回は、対面の道路に設置された10点のアートボードも印象的です。
井川さん: 巨大壁画という「点」だけでなく、アートボードが点在する「線」を作ることで、街歩きの楽しみを創出しました。淡路島ゆかりのアーティストから国内外で活躍する精鋭まで、多様な感性が混ざり合っています。淡路島にもこんなアーティストがいるんだなということも知ってもらえたら。住民の方々に、さまざまな角度から日常の風景を再発見するきっかけになっていただけたら嬉しいです。


——これから洲本市が目指す「まちづくり」の姿を教えてください。
元木さん: ミューラルは完成しましたが、これは「きっかけ」に過ぎません。観光としての挑戦はここからだと考えています。現在、連合町内会長さんや旅館組合の皆さんなど、地域の主要なプレーヤーが集まる「洲本市オーバーツーリズム未然防止協議会」を立ち上げ、本音で話し合う場を作りはじめています。


住民の方々と観光業の間の溝をどう埋め、ウィンウィンの関係を作れるか。ミューラルという目に見える変化をきっかけに、「自分たちの街をどうしていきたいか」をみんなで語り合いたい。500年の歴史を背負いながら、新しい文化を拒まず、市民が「この街が好きだ」と胸を張れる。そんな温かいまちづくりを、アートと共に描いていけたらいいですね。

プロジェクト名: 洲本市(淡路島)でのミューラルプロジェクト 制作期間:2026年1月13日〜24日 制作場所:兵庫県洲本市栄町1丁目2−6 主催:洲本市、WALL SHARE株式会社 参加アーティスト:TITI FREAK(チチフリーク)、その他




